チャンネル登録数14万人超えの人気YouTuber「二か月のパパ」さんは、息子のおうきくんが生後2カ月の時に離婚し、親権と監護権の両方を持つシングルファザーとして、日々の様子や悩み、おうきくんの成長の喜びを配信しています。仕事との両立、ワンオペ育児、周囲との関係性などに対してどのように向き合っているのか、うかがいました。
在宅で動画編集をする「二か月のパパ」さん(左)と息子のおうきくん
――シングルファザーとして生きる決意をした当時の状況、お気持ちを聞かせください。
僕はシングルマザーの方と結婚して、おうきが生まれました。離婚したのはおうきが生後2カ月の時でしたが、実際に一人で育てる決意をしたのはその1カ月くらい前でした。ひとり親で、ましてや男性の僕が子育てをするのは想像を絶するだろうという覚悟を持ち、「僕がこの子を守らなければ。これからの人生はおうきと二人で生きよう」と心を決めました。とはいえ、働いていたので、実家に戻り、両親の協力を得てシングルファザー生活が始まりました。
――仕事をしながらの育児をどのようにこなしていたのでしょうか?
当時、私はコールセンターの管理職として働いていました。6年前は世の中でまだ男性の育児休暇取得について意識が薄かったからか、会社からもそうした提案はありませんでした。仕事は早番、遅番、夜勤の三交代制で、夜勤の時は両親に預けましたが、0歳のころのおうきはぐずってなかなか寝てくれず、僕が明け方に帰宅すると、母が疲れて倒れそうになっていた時もありました。
生後2カ月のころ、沐浴(もくよく)中のおうきくん
両親はその時すでに70代。二人に重い負担をかけているという後ろめたさがあり、会社に掛け合い夜勤を減らしてもらいました。仕事を代わってくれる同じ管理職の男性は「大丈夫だよ」と言ってはくれたものの、彼にもこどもがいる。自分が迷惑をかけているようで、申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。昇進に必要な資格やスキルアップのために勉強する時間も取れませんでした。このまま仕事と育児を両立させるのは体力的にも、金銭的にもきついと感じるようになりました。
――そこで副業としてYouTubeを始めたのですね?
シングルファザーのリアルな子育てを発信することで、同じ立場のひとり親の方々と悩みや孤独感を共有できるんじゃないか、という思いがありました。
シングルファザーはかなり珍しいという自覚がありました。ひとりで子育てをする方々が実際にどうやって暮らしているのか、意見を聞いてみたい気持ちもありました。
――YouTubeは大きな反響を呼びました。働き方、生活はどのように変わりましたか?
動画配信が軌道に乗ったところで働いていた会社を辞め、メインの仕事をYouTuberにチェンジし、副業として他社のコールセンターで派遣社員として働きました。両親の負担を考えたことが大きいですが、おうきがしゃべるようになれば、お互いコミュニケーションが取れて二人で暮らしていけるだろうと思い、なんとかお金をためて、おうきが3歳になるまでに実家を出ようと決意しました。実際は、おうきが2歳半の時に、二人暮らしをスタートできました。現在は運良くYouTubeの収入で生活できていますが、この先の不安は常にあります。
おうきくん2歳の夏、自宅でパパと水遊び
――ワンオペ育児で大変だったことは?
それはもう山ほど(笑)。2歳にはイヤイヤ期がやってきて、それまでできていた着替えや片付けなどが突然できなくなる「4歳の壁」も経験しました。5歳を過ぎるとどんどん言葉を覚えてちょっと生意気にもなってきました。
おうきとの向き合いでは、コールセンターの管理職としてお客さまのクレーム対応を取りまとめてきた経験が役に立っています。相手の話を聞き、共感した上で、納得してもらうまでわかりやすく説明する、という流れです。おうきに対しても、まずはしっかりと話を聞くことを心がけ、大人に接する時と同じように話します。わからない言葉は一つずつその意味を説明しながら、ゆっくりと。すると、おうきも落ち着いて話を聞いてくれます。
――おうきくんには食物アレルギーとアトピー性皮膚炎、ぜんそくがあって、健康面でも大変だったのでは?
6歳になった今は体力もついてきましたが、以前は、感染症にかかり、持病を悪化させてしまうこともありました。高齢の両親には預けられないので、1週間、10日と二人で家にこもることしかできません。
僕は、小児科医のホームページで病気の症状を調べたり、土日に診療する救急病院がどこか毎週チェックしたりして、急なことが起きても冷静に対応できるよう準備していました。
――おうきくんとのこれまでの生活で、印象に残っている出来事はありますか?
二人暮らしを始めたころ、僕がストレスの溜まった状態だったからか、切羽詰まったような表情をしていると、おうきが「パパ、笑ってる?」と聞いてきたのです。なんでそんなことを言うんだろうと不思議でした。
誰かがおうきにそうするように教えたのかとも思いました。しかし、両親も保育士さんも「教えていない」と。2歳のこどもなりに考え、心配し、気を遣ってくれたのかーー。そう思うと涙が止まりませんでした。慣れないワンオペ育児で疲れ切っていた時、パパはあの声かけに心の底から助けられたという感謝の思いがあります。
パパ手作りのミートソースパスタに「おいしい!」とおうきくん
――地域の人たち、同年代のこどもがいるパパやママとの関係は? ひとり親ということは伝えましたか?
最初のころは、僕には絶対「パパ友・ママ友」なんてできないと思っていたし、特に、ママさんたちには話しかけづらかったですね。シングルファザーのみなさんにとって、一番多い悩みなのではないでしょうか。幼稚園のイベントで会っても、挨拶から先に話が続かない。「もうちょっと話せたんじゃない!?」と帰ってから後悔したことも(笑)。でも、もし僕にいい印象を持たれなかった場合、それがこどもへの接し方にもつながるのではないかと考えて、自制していた部分は大きかったかもしれません。
その後、ママさんたちとも徐々に話せるようになり、自分がシングルファザーだと周囲に伝えたのは、おうきが年中の時でした。すると、「大変ですね」「すごいですね」と声をかけられ、それが子育てについて、いろいろな話ができるきっかけになったのかもしれません。
ご近所さんに伝えたのも、おうきとの二人暮らしを始めて2年目の時と少し時間がかかりました。近くに住む高齢者の方々がおうきに声をかけてくれるようになり、顔なじみになると僕にも話しかけてくれて。その時に「僕は『二か月のパパ』という名前でYouTubeを発信していて、編集作業もあるので、いつも家にいるんです」と自己紹介しました。
実際に動画を見て、生活が目に見える形でわかったからか、今では、僕が忙しい時に玄関前の雪かきをしてくれたり庭の雑草を取ってくれたりする方もいます。家族ぐるみでお付き合いしているお宅もあります。おうきには「もしパパに何かあった時は、隣や近所のおうちのピンポンを押しなさい」と教えてあります。周りの方々の理解と協力は、すごく心強いですね。
大雪が降った日に、パパと二人で雪かき
――ひとり親、特にシングルファザーは生活や子育ての悩みを周りに打ち明けにくく、抱えこんでしまう傾向にあると言われています。
YouTubeのフォロワーさんにもそういう人はいるようです。僕自身、シングルファザーであることにまったく恥ずかしさはありませんが、初めての人に「ひとり親家庭」と言うのもなんだかアピールしているようにも思えてしまいます。
たとえ、シングルファザーだと伝えたとしても、子育ての悩みを打ち明けにくい。地元の男友達と3カ月に一度ほど飲み会をするのですが、そこで悩みを言おうとしても、グチになってしまう。せっかくの飲みの機会なのに、雰囲気も暗くなってしまいます。なので、結局、仕事の話しかしないし、自分で解決策を見つけようと、インターネットで調べてしまう……その繰り返しです。
そういう意味では、YouTubeやSNSで同じ立場にいる人とつながることができて、励まされることもありました。僕のYouTubeを見てくれている人たちと東京・大阪でファンミーティングも開催しました。
ファンミーティングには親子で登壇
僕はYouTubeでの発信という手段があったから、他の人と知り合うきっかけができたけれど、そうでなければ、人知れず悩んで引きこもってしまうかもしれない。シングルの皆さんがつながって少しでも前を向いて生きてもらえたら――。今後は、同じ立場の人たち向けのコミュニティツールを自ら作っていけたらと考えています。
――仕事と子育てを両立させるためのコツはありますか?
こども優先で、自分の時間を持つことは諦めているし、両立術を語るのはなかなか難しいです(笑)。二人暮らしを始めたころは、「パパ遊んで!」とせがまれるとその相手をしていました。6歳になった今は、「仕事するから、あと2時間待ってね」「今洗濯しないと、明日、(習い事の時に着る)サッカーのユニフォーム着られないよ」などと説明すれば、理解し納得してくれるようになったのでだいぶ楽になりました。とにかく話して伝えることが大事だと思います。
おうきくんとのピクニックのためにパパが初めて作った「キャラ弁」
――シングルファザーやひとり親家庭が暮らしやすくなるために、今後必要だと思う取り組みはありますか?
今住んでいる地域に、ひとり親家庭の相談窓口や支援センターがあることは知っていますが、そこに足を運ぶのはハードルが高いと僕は感じました。もう少し身近な支援の仕組みがあると利用しやすくなるのではないでしょうか。
コロナの時期は在宅でコールセンターの仕事をしていました。在宅ワークも含め、いろんな働き方の選択肢が整っている職場環境があれば、僕も会社を辞めることなく、仕事を調整しながら働いていたかもしれません。
――シングルファザーやひとり親の方々にメッセージをお願いします。
僕は在宅で仕事をしていますが、中には、親御さんに頼れず、僕より大変な状況にいる方がずっと多いと思います。子育ては、一人ひとりの親が、こどもたちに向けた愛や思いで成り立っていると僕は信じています。僕も含め、みなさんが子育てをもっと楽しめるような社会になることを願っています。
(写真はすべて「二か月のパパ」さん提供)